fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

十二月大歌舞伎 夜の部 團十郎・大和屋・菊之助・猿之助他の『助六由縁江戸桜』

十二月大歌舞伎が開幕した。先月に続いて満員御礼の垂れ幕が下がり、客席はやはり熱気に溢れている。ただ先月は『勧進帳』、『助六由縁江戸桜』と豪華な狂言が並んだが、今月は「助六」はそのままだが、昼の部は「押戻し」のみ。歌舞伎十八番とは云え團十郎の出演は五分程度の狂言なので、些か寂しい。その分新之助の『毛抜』があると云う狂言立て。まぁそれは昼の部の話。夜の部は何と云っても「助六」だ。

 

幕開きは「口上」。先月は大名題のみが並んだコンパクトな襲名披露口上だったが、今月は左團次を始めとして総勢二十三名の役者が並ぶ華やかな口上。ただ本来ご披露役であった高麗屋が病気休演。松竹によると大事を取った休演で、今月中をメドに復帰を目指すとの事。いつまでも若々しい高麗屋だが齢八十の傘寿になっている。くれぐれも無理だけはしないで貰いたい。高麗屋には、播磨屋の分まで長生きして頂かねばならないと思っているので。その関係でご披露役は左團次となった。しかし市川家に関わる役者が全員柿色の裃で舞台上に居並んだ姿は壮観の一言。改めて市川宗家の大きさを感じさせる。

 

やはり左團次のご披露口上は些か危なっかしかったが、筆者が観劇した日は團十郎の誕生日であったので、口上で「お誕生日おめでとうございます」と團十郎に向けてお辞儀をし、見物衆からも温かい拍手が送られていた。その他の役者連は先月と違って年齢層が若く、云い淀みも少ない安定感(?)のある口上だった。中では猿之助が、「幸四郎の兄貴が私の気持ちを代弁してくれたので、私の挨拶は以下同文とさせて頂きます」とやって、見物衆を大いに沸かせていた。しかし最年少の新之助から最年長の寿猿迄、十世代が居並ぶ口上も前代未聞だろう。先月に引き続いて成田屋ならではの「睨み」も披露。二ヶ月続きの「睨み」がコロナに止めを刺してくれる事を願ってやまない。

 

休憩を挟んで『團十郎娘』、別名『近江のお兼』。配役はぼたんのお兼、男女蔵・種之助・男寅・福之助・右團次の漁師。女性が歌舞伎座で出し物をするのは市川翠扇以来六十年ぶりだと云う。これも画期的な事だ。もう十一歳になったとの事で、大分大きくなった。子供の成長は早いものだ。この舞踊はクドキもあり、立ち回りもあり、晒を使った振りもありで、決して易しいものではない。しかし幼いとは云え流石舞踊市川流の後継者、しっかりした踊りになっている。

 

無論まだ子供なので、お兼の色気の様なものは出ない(出たらかえって不気味だろう)が、そんなものはいずれ大人になれば出て来るもの。今は振りをきっちりやる事が大事。その意味では見事なものだったと思う。男女蔵と右團次の若手花形に混じっての舞踊は流石の貫禄。若手花形は身体はよく動くし、所作にキレがあって、観ていて実に清々しい舞踊。市川宗家のお嬢様を懸命に盛り立てている姿は好感が持てた。團十郎の事だ、いずれまた機会を見てぼたんに出し物をさせるだろう。成長して行く姿を楽しみに観て行きたい。

 

打ち出しは先月に引き続き「助六」。二ヶ月続けての上演は、この演目に対する團十郎の深い思い入れを示すものだろう。團十郎助六、大和屋の揚巻、菊之助の白玉、猿之助の里暁、巳之助の福山かつぎ、猿弥の仙平、市蔵の利金太、萬次郎のお辰、友右衛門の三浦屋女房、勘九郎の新兵衛、吉弥の満江、彌十郎の意休、左團次の門兵衛、幸四郎の口上と云う配役。團十郎幸四郎以外は先月と役者が代わっている。先月揚巻だった菊之助が白玉に回り、揚巻は大和屋。筆者は観られなかったが、先月の後半はこの逆の配役だったらしい。しかし役者バランスとしては今月の方が本当だろう。

 

先月観ている狂言なので、感想に変わりはない。相変わらず溜め息で出る程見事な花道の出端。粋で美しい舞台姿。科白廻しも素晴らしく、無類の助六である。先月と少し肌合いが違ったのは意休と揚巻が同世代の松緑菊之助から、彌十郎玉三郎になった事で、この二人とのやり取りに團十郎持ち前の愛嬌が滲み、少し甘える様な風情が醸し出されている。出端の様な一人芝居に変化はないが、やはり相手役によって芝居は変化するものなのだ。

 

面白かったのは助六が意休の事をくさす科白。通常役者の名前や屋号を云って「~によく似た奴だ~」となるのだが(先月は紀尾井町によく似たと云っていた)、今年大河ドラマでブレイクした彌十郎意休を「北条時政によく似た奴だ~」とやって、見物衆を大いに沸かせていた。その彌十郎初役の意休も柄を生かした貫禄と、実に手強い芝居でラスボス的な大きさを出しており、まずは見事な出来。そして大和屋の揚巻はこれぞ本役。先月の菊之助も見事であったが、何度も手掛けている大和屋はまた違った味わいで素晴らしいもの。酒の香りがほのかに客席迄漂って来る様な花道での酔態の艶っほさ、舞台に廻ってのその美しさ、貫禄。これぞ正に松の位の太夫職だ。

 

満江との二度目の出では、世話の雰囲気を醸し出していた菊之助と違い、どこか母性を感じさせる揚巻。助六が甘えている感じが出ており、この二人のやり取りは実にいい雰囲気。大和屋の大きさに身を任せている團十郎助六と云った感じであった。巳之助の福山かつぎは気っ風のいい啖呵と鯔背な所作で、これまた結構。亡き父三津五郎に増々似て来ていて、胸が熱くなった。猿之助の里暁は助六に「寶世さん、お誕生日おめでとうございます」と呼びかけプレゼントを出すと云うサービスぶり。新橋での團十郎正月公演の宣伝迄して大いに舞台を盛り上げていた。

 

勘九郎の新兵衛は助六の兄貴には見えづらかったが、和かみがあり、生来の愛嬌を生かしてまずは文句のない出来。吉弥の満江、萬次郎のお辰と手練れが脇を固めて、見事な「助六」となった。ただ左團次が少し痩せた様に見え、立ち姿も辛そうに感じられた。高麗屋が休演して口上の披露役も兼ねている左團次。体調にだけは充分留意して貰いたいものだ。

 

今月はこの後、年末恒例の南座の顔見世を観劇予定。愛之助獅童鴈治郎、そして松嶋屋と揃う公演が今から楽しみである。