第一部に続いて、平成中村座の第二部を観劇。一部同様大入り満員の大盛況。しかし報道によると、先日の公演が一日、大風で中止に追い込まれたと云う。幸い筆者は無事観劇出来たが、天候とは恐ろしいものだ。今年は天候不順が続いており、大雨で公演が中止になる事もあるかもしれない。筆者は東京在住なのでまだ良いが、芝居見物の為に上京される方には大打撃であろう。雨が降らないのも問題だが、今年の様に降りすぎるのもまた困ったものである。
幕開きは『御存 鈴ヶ森』。大南北作の名狂言である。史実では全く関係のない幡随院長兵衛と白井権八を結び付け、二人の出会いをドラマチックに描いた流石南北と云った芝居である。配役は芝翫の長兵衛、勘太郎の権八。芝翫は三度目との事だが、当然の様に勘太郎は初役。前髪二枚目の代表的な役柄である権八に、勘九郎の愛息勘太郎が挑む。正確な記録は判らないが、中学生で権八を勤めると云うのは、記録的な事ではないだろうか。
それにしても勘太郎、随分背丈が伸びたものだ。その点では芝翫と並んでも違和感のないものである。伸び盛りの成長は凄いものだ。勿論まだ中学生の勘太郎、しかも初役。教わった事を教わった通りに、余計な入れ事などせずにきっちりこなす、今はそれで充分である。ニンとしては向いていると思うし、芸に厳しい中村屋なのでその所作はきっちりとしていて、破綻はない。しかし当然の事乍らこの役に必要な色気・艶の様なものを出すには至っていない。逆に今からこれを醸し出せたら恐ろしい事だ。兎に角芝翫相手に権八をきっちり演じ通す、これは貴重な経験として将来必ず生きて来るはずである。
一方芝翫の長兵衛。これはもう圧巻である。ニンに適っており、その押し出しの見事さ、舞台を圧する貫禄、たっぷりとした科白廻し、どこを取ってもこれぞ長兵衛。初演時に誰の指導を受けたのかは判らないが、この役を当り役としていた高麗屋がもう演じられないとするならば、この芝翫こそ当代の長兵衛と云って良いであろう。芝翫襲名時に「湯殿の長兵衛」を演じていたので、当人も自信を持っている役柄であると思う。ぜひ近い内に歌舞伎座で芝翫の長兵衛を観てみたい。松竹さん、お願いしますよ。
打ち出しは『助六曲輪初花桜』。云わずと知れた『勧進帳』と並ぶ歌舞伎十八番の筆頭狂言である。成田屋が演じる時は『助六由縁江戸桜』と云う外題だが、今回は松嶋屋流なので『助六曲輪初花桜』となる。成田屋の時には河東節十寸見会御連中が付く事になるが、松嶋屋型なので今回は長唄である。配役は勘九郎の助六、七之助の揚巻、芝翫の意休、橋之助の門兵衛、男寅・宗之助・鶴松の並び傾城、福之助の仙平、長三郎の福山かつぎ、芝のぶの白玉、梅花の巻絹、歌女之丞の満江、扇雀の新兵衛、鴈治郎の里暁。中では芝のぶの白玉が抜擢人事。鴈治郎や七之助らを除けば、勘九郎を始めとして殆どが初役である。松嶋屋型なので、当然の様に勘九郎は松嶋屋の教えを受けている。
團十郎の助六は本当に素晴らしいものだ。荒事の力感と色気、それにこの優独特の愛嬌が綯い交ぜになった如何にも團十郎らしい助六。しかし勘九郎の助六はまた違った味わいを見せてくれている。指導をした松嶋屋の助六は、荒事味と云うよりその零れんばかりの艶が実に見事で、独自の助六を形成していた。勘九郎は團十郎と松嶋屋の中間を行くと云った感じであったろうか。力感で團十郎に及ばず、色気では松嶋屋に及ばないのだがこの優らしい愛嬌があり、その所作は実にきっぱりとしていて見応え充分。歳が三人の中では一番若いと云う事もあるのかもしれないが、新兵衛や母満江への甘えが可愛らしく、この優独特の愛嬌と合わさって勘九郎独自の味わいを醸し出しているのだ。
「鼻の穴に屋形船を蹴こむぞ~こりゃまた何のこったい」と科白廻しも実に結構なトーンで、とても初役とは思えない程の見事なものだ。新兵衛とのやり取りもイキが合って実に結構な出来。小屋が小さいと云う事もあり、朗々と響き渡る科白廻しが心地よく、筆者は只管聴き惚れていた。成田屋型ではないので口上はなく、その代わりと云う訳ではないだろうが、「水入り」が付いている。滅多に出ない場なので実に貴重な機会ではあったが、今まで実にかっこ良かった助六がこの場があると小さく見えてしまう。落語で云うと噺は面白いがオチがつまらない様な感じで、その様な場合オチをカットして口演される事もある。珍しい場を観れたのは嬉しかったが、ここは出さない方が後味が良いかもしれない。
七之助の揚巻は松嶋屋相手に抜擢されて以来二度目らしいが、これは正に適役。その美しさ、「悪態の初音」の見事な科白廻し、その艶、やはり今の七之助には「九段目」の戸無瀬よりこちらが本役であろう。舞台一面に大輪の花が咲いたかの様で、圧巻の揚巻であった。その他では鴈治郎の里暁がこの優らしく愛嬌たっぷりに股くぐりを見せて見物衆も大いに沸いており、流石の里暁。男寅・宗之助・鶴松を並び傾城に廻して白玉を演じた芝のぶも立派に揚巻の妹分を演じており、抜擢に十分応えていた。そしてもう一つ素晴らしかったのは芝翫の意休。初役の様であるが、手強さ・貫禄・愛嬌どこを取っても申し分なく、素晴らしい意休であった。
この興行の最後の三日間は、何と松嶋屋が新兵衛を勤めているらしい。歌舞伎座の本公演が終わった後すぐに駆け付けた感じであろうが、傘寿を越えた人をちょっとこき使い過ぎではないかと、心配になってしまう。無理だけはしないで貰いたいものだ。筆者が観た日の新兵衛は扇雀。女形を本領とするこの優らしい色気があり、その所作・科白廻しは実に柔らかく、これぞ和事芸とも呼ぶべき見事なものであった。最後になったが、長三郎が福山かつぎを子供らしく元気一杯に勤めており、見上げたものであったと思う。
昼夜共充実した狂言立てで、見どころ満載であった平成中村座。一部注文をつけたところもあったものの、充分楽しませて貰えた。来年もと云うのは贅沢かもしれないが、四年ぶりとは云わずもっと短いスパンで開催して欲しいと、切に願っている。







