fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

猿之助・・・

 

昨日、衝撃的なニュースが飛び込んで来た。猿之助とその父である段四郎、そして母親が自宅で倒れて緊急搬送されたと云うのだ。母親は現場で死亡が確認され、何とか助かって欲しいと祈っていた段四郎も、まもなく死亡が伝えられた。無念と云うしかない。

 

不幸中の幸いで、猿之助自身は命に別状はないと云う事で、それは一安心だった。しかし伝えられるところによると、遺書らしき書置きが見つかり、両親を巻き込んでの心中の疑いがあると云う。まだ詳報はなく、何とも云えない。猿之助の自殺未遂は、ほぼほぼ間違いはないにしても、両親の死は自ら選んだものなのか、猿之助の強制乃至は示唆によるものなのかはまだ判然としない。ただもし強制したものであるならば、猿之助が本復したとしても、実刑は免れまい。となると役者生命に関わる事にもなる。しかしまだ今は全て憶測の域を出ない。今後の報道を待つしかないであろう。

 

一部報道で、その原因の一つは昨日発売になった週刊誌による、猿之助の弟子に対するセクハラ記事が遠因との事だが、それもまた憶測でしかない。しかし痛恨の極みとはこの事である。筆者にとってはある意味播磨屋の訃報よりも衝撃であった。猿之助と云う役者の存在は唯一無二であり、他に替えのきかないと云う意味では、高麗屋松嶋屋にも比すべき存在であった。今正に旬の役者であり、しかもこの旬は老境にある先の二大名人と異なり、今後何十年も続く最長不倒の連続をも予感させるものであったからだ。何故だ、何故なんだ、猿之助

 

例えどんな事があろうと、親の訃報があろうと、役者たるもの体調以外の事で舞台に穴を空けてはならない事は、猿之助なら充分承知していたはずである。しかも明治座で自らの名前を冠した座頭公演の最中である。筆者も無論チケットをおさえている。昨日の昼の部は中止となったが、夜の部は千秋楽のみ主演を勤める予定であった隼人が、懸命に代演を勤めていたと云う。日頃可愛がっていた後輩の隼人にまで、大きな負担をかけているのですよ、猿之助。何があったのかは筆者には知る由もないが、余りに短絡的ではなかったのか、猿之助。あなたの命はあなただけの物ではない。断じてない。あなたの芝居を、芸を愛する見物衆全ての物でもあるのだ。それを一時でも忘れて死を選ぶとは・・・助かったから良い様なものの、亡くなっていたら天国で播磨屋勘三郎にどやしつけられていたに違いない。

 

そして亡くなった段四郎、残念でならない。近年は闘病が伝えられ舞台復帰は難しいとは思っていたが、こんな亡くりかたになるとは・・・。重厚な義太夫狂言から軽い世話物迄何でもこなし、そしてその全てで抜群の味を出していた名人役者であった。闘病中の兄猿翁より先に天国に行く事になったのは、ご当人にとっても、猿翁にとっても無念であるに違いない。同日亡くなられた奥方様共々、謹んでご冥福をお祈りしたい。こうなってみると、猿翁の体調が心配される。何とか中車が支えてあげて欲しい。

 

名コンビを謳われた幸四郎の無念もまた、察するに余りある。素晴らしい阿吽の呼吸を見せてくれる二人であったのに・・・。毎日ブログを更新していた團十郎彌十郎の更新も止まっている。もって歌舞伎界が受けた衝撃の大きさが知れる。今筆者は、途轍もない脱力感に包まれている。猿之助が無事本復し、父段四郎の思いも背負って舞台を勤めあげる日がいつか来る事を、祈るのみである。