fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

芸術祭十月大歌舞伎 第二部 鴈治郎・幸四郎の『祇園恋づくし』、松緑・幸四郎の『釣女』

歌舞伎座二部を観劇。筆者が観た日は七分くらいの入りだったろうか。書き込みでは空席が目立つと云う情報もあった。七月大阪で上演した際には大入りだったと云う『祇園恋づくし』。観た感想としては、江戸っ子が京都に乗り込んで孤軍奮闘する内容なので、ちょっと東京では受けづらいかもしれない。しかし芝居はしっかりしており、筋は他愛無いが、楽しめる狂言だった。

 

幕開きはその『祇園恋づくし』。鴈治郎が次郎八とおつぎの二役、幸四郎が留五郎と染香の二役、巳之助の文七、千之助のおその、高麗蔵のおげん、孝太郎のお筆、歌六の太兵衛と云う配役。落語の「祇園会」を元にした狂言。最近落語でもあまり取り上げられる機会が少ない噺。八代目の文治が京都弁・大阪弁・江戸弁を使い分けて見事なものだったと云う伝説が残っている。六代目と二代目延若が初演したものを平成になって山城屋と十八代目勘三郎が復活させた狂言で、この夏大阪松竹での上演はそれ以来の事だったらしい。今年夏の大坂松竹には行けなかったので、再演は非常に嬉しい限りだ。

 

京都で茶道具屋を営む次郎八のもとに、友人の留五郎が江戸から伊勢参りの帰りに立ち寄って逗留している。留五郎は京都の風俗に馴染めず、店の者に色々悪態をついて嫌われている様子。一方次郎八は芸妓の染香に入れあげているが、相手にされていないのを気づいてない。しかし女房のおつぎは亭主が浮気をしていると疑いを持っている。それに手代の忠七とおつぎ妹おそのの恋バナが絡み、その事で仲違いをしてしまった次郎八と留五郎の仲を修復しようと太兵衛が四条の料亭で一席を設ける。お互いお国自慢をして仲直りをしようとしない二人だったが、最後は忠七とおそのの仲も認め、二人の仲も修復されてめでたしめでたしと云う筋。まぁ筋立てとしては他愛もないものだ。

 

これこそ正に役者の芸で見せる狂言鴈治郎幸四郎とも芝居が上手く、女形との二役早替りも鮮やかで流石に見せる。殊に鴈治郎はこてこての上方芝居なので水を得た魚の様に躍動していた。染香の裾を次郎八が捉えてバッタリ倒すドリフの様なギャグもあり、華やかで楽しい狂言になっている。染香を演じる幸四郎も、持ち前の愛嬌がこぼれんばかり。真女形も真っ青の美貌と所作で、これまた流石の芸。留五郎が大詰で聞かせるお国自慢の啖呵も鮮やかで、見事な二役演じ分けだった。この二人の掛け合い芝居は実に見応えがあり、また他の狂言でも見せて貰いたいものだと思う。

 

脇では巳之助が慣れない上方のつっころばし役を好演。孝太郎のお筆も祇園料亭の女将役で上方DNAをしっかり感じさせる芝居で、おかしみもしっかり出しており、これまた結構。高麗蔵も焼きもち焼きの女房姿に色気と可愛らしさがあった。亭主太兵衛の歌六は最後にしか出てこないが、この二人の挿話を事前に出した方が、話としては盛り上がったとは思う。今は時間の関係で厳しいのかもしれないが。イキもぴったりの主演二人を脇が盛り立てて客席も沸いており、肩の凝らない面白い狂言だった。

 

打ち出しは『釣女』。松羽目物の人気狂言だが、歌舞伎座での上演は二十三年ぶりだと云う。これは意外だった。松緑の太郎冠者、幸四郎の醜女、歌昇の大名某、笑也の上臈と云う配役。何と全員が初役らしい。先月に引き続き松緑幸四郎の共演が実現。先月の様な重い芝居だけでなく、こう云う軽い笑劇でも見事なイキを見せてくれた。

 

踊り巧者である松緑の松羽目物は定評のあるところ。軽い芝居だが必要以上にくだける事もなく、折り目正しい芝居。やはり笑劇とは云え松羽目物なのだ、歌舞伎らしい品がなければならない。その点、流石は松緑である。一方幸四郎の醜女は顔はともかく愛嬌があり実に愛らしく、こちらも必要以上にはくだけない。それでいて見物衆をしっかり沸せていた。後半に出てくるだけなので出演時間は短いが、全てを持って行く美味しい役。当人も楽しんで演じているのが客席にも伝わって来た。

 

歌昇の大名某もしっかりした科白廻しと品格で、初役とは思えない見事な出来。笑也は還暦過ぎとはとても思えない美しい上臈で、親子程も歳の違う歌昇と並んでも些かも違和感がないのは凄い事。後見を除けば僅か四人しか出ない短い芝居だが、いい打ち出し狂言だった。ずっしり手応えのある狂言はない二部だったが、たまにはこう云う狂言立ても良いものだ。重いばかりが芝居ではなかろう。

 

今月はこの後名古屋にも遠征予定。大和屋の丸本、今から楽しみでならない。