fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

四月大歌舞伎 昼の部 播磨屋と音羽屋の『鈴ヶ森』

昼の部のその他の演目について、感想を綴る。

 

幕開きは『平成代名残絵巻』。福助が復帰後3度目の舞台。相変わらず美しく、貫禄と威厳がある。右手が不自由そうなのは、もう治らないのだろうか。もう「道成寺」とかは無理なのだろうな・・・残念極まりないが、元気な姿を見れる事で良しとしよう。笑也と笑三郎が競い合う様に揃って、艶やかな舞台だった。

 

「野崎村」を挟んで『寿栄藤末廣』。山城屋の為に作られた舞踊。鴈治郎、壱太郎と三代揃い踏みに加えて、猿之助歌昇、種之助、米吉の播磨屋若手花形三羽烏、亀鶴と東の成駒屋児太郎が揃った華やかな一幕。内容的には大した物ではないが、山城屋の米寿を皆で寿ぐ。山城屋には、いつまでも元気で一日でも長く舞台を勤めて欲しい。

 

打ち出し狂言はお待ちかね『御存鈴ヶ森』。音羽屋の権八播磨屋の長兵衛、又五郎の早助に、左團次と楽善を勘蔵と熊六にズバっと使ってしまう贅沢な配役。音羽屋の権八は若々しさこそ去年観た愛之助に譲るが、その形の美しさ、流れる様な所作、とても八十歳近い人とは思えない見事な前髪役者ぶり。しかも若衆らしい色気も充分で、流石の一言。40年ぶりの権八らしいが、白鸚松嶋屋が何十年ぶりと云う役を立て続けにかけている事に刺激を受けたのだろうか、ブランクを全く感じさせない素晴らしい権八。最近当代の大幹部が次々と久しぶりの狂言を披露してくれていて、嬉しい限りだ。

 

播磨屋の長兵衛は完全に手の内のもの。駕籠のたれを開けたとたん、「播磨屋!」の大向こうがかかる。こう云う瞬間こそ歌舞伎の一つの醍醐味。正に客席と一体となって作るのが歌舞伎なのだと、改めて思わされる。「お若けぇの、お待ちなせえやし」「待てとお止どめなさりしは、手前がことでござるよな」のお約束のやり取り。演じているのが播磨屋音羽屋。芸格も揃い、イキも合い、何も云う事のない『鈴ヶ森』。筋を追う芝居も勿論あるが、歌舞伎の真骨頂は役者を観る事なのだ。この二人が揃う『鈴ヶ森』は今後そうある事ではないと云うか、これが最後になるかもしれない。まだの未見の方は、観ておいて損はないと、力一杯推奨したい。もうあまり日はないけれど。

 

夜の部も観劇したが、その感想はまた別項にて綴る事にする。