fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

南座 吉例顔見世興行 夜の部 高砂屋・愛之助・菊之助の『寿曽我対面』、菊五郎・勘九郎・幸四郎の『弁天娘女男白浪』、巳之助・隼人・壱太郎の『三人形』

筆者にとってここ数年の年末恒例行事となっている京都遠征で、南座の顔見世興行を観劇。今年は音羽屋の襲名公演となっており、例年にも増して大顔合わせの座組となっている。同行した家族も、凄いメンバーが揃っていると驚いていた。当然の事乍ら大入り満員の大盛況。歌舞伎座同様、南座の客席も熱気に溢れていた。一年を締めくくるに相応しい公演であった。

 

幕開きは『寿曽我対面』。お目出度い襲名に相応しい狂言であろう。配役は高砂屋の祐経、孝太郎の十郎、愛之助の五郎、虎之介の三郎、鷹之資の小藤太、扇雀の大磯の虎、莟玉の化粧坂の少将、菊市郎の景高、松之助の景時、歌女之丞の亀鶴、鴈治郎の朝比奈、菊之助の菊若丸。本来なら鬼王のところを襲名狂言と云う事で、鬼王一子菊若丸として菊之助が演じている。中ではその菊之助と鷹之資・莟玉が初役の様である。

 

そしてその菊之助であるが短い出乍ら実に凛々しく、立派に菊若丸を勤めていた。これなら別に子供の設定にせずとも、鬼王新左衛門で良かったのではないかと思った。同年配の新之助が『毛抜』を勤めた経緯もあるのだから。ただ口上を除けば菊之助の夜の部の出番はこれのみと云うのは、襲名としては些か寂しかったが。高砂屋の祐経は流石座頭の貫禄を示しており、見事なもの。扇雀の虎は、立女形の貫禄漂う立派さであったし、莟玉初役の少将も可憐な美しさで、大一座の中でも存在感があった。

 

七年ぶりのやはり同じ南座の顔見世以来の組み合わせとなる孝太郎の十郎と、愛之助の五郎。和事を十分知り尽くしている孝太郎の十郎は、嫋やかさの中にも兄としての貫禄もあり、見事な出来。愛之助の五郎は必ずしもニンではないかもしれないが、仇討に逸る気持ちを抑えきれない前髪らしい青々としたところと、荒事の力感を併せ持った傑作とも云うべき見事さ。この二人の組み合わせは実に見応えがあり、何度も観た狂言ではあるが、中でもとりわけ見事な出来になっていた様に思う。

 

休憩を挟んで『口上』。歌舞伎座や大阪松竹の時と同様、襲名の音羽屋親子を挟んで幹部役者が居並び、その後ろに音羽屋系の役者が座ると云う形の口上。同座した幹部役者は、ご披露役の松嶋屋を筆頭に高砂屋鴈治郎扇雀歌六幸四郎・進之介・孝太郎・愛之助勘九郎七之助と云うメンバー。高麗屋や七代目などの大名題が体調の関係もあり参加していないので、やや若返った印象。松嶋屋は八代目の芸域の広さを称え、鴈治郎や進之介は菊之助を「年齢を考えると驚異的」と表現していた。中で勘九郎が「菊之助さんは私の次男長三郎と同級生なので、私と八代目はパパ友」と話していたのには、思わずほっこりさせられた。

 

続いて八代目の襲名狂言『弁天娘女男白浪』から「浜松屋」と「稲瀬川」。五月の歌舞伎座でも演じた狂言で、菊之助を襲名する際にも取り上げた謂わば音羽屋家の芸である。ただ五月の時は「山門」や「土橋」もあったが、今回は先の二場のみ。配役は菊五郎の弁天小僧、幸四郎の駄右衛門、愛之助の利平、七之助の十三郎、勘九郎の力丸、巳之助の清次、鷹之資の宗之助、片岡亀蔵が亡くなってしまった代役で菊市郎の悪次郎、橘太郎の与九郎、歌六の幸兵衛。五月の時とは菊五郎歌六以外は全員替わっている。南座番附には役者のコメントがないのではっきりとは云えないが、本公演では愛之助と巳之助が初役の様である。

 

八代目の弁天、五月の時と大きく印象が変わるものではない。娘と偽っての出から、その美しさは歌舞伎座より一回り小さい南座ではより映える。この美しい娘が見顕されての変貌ぶりは実に鮮やかで、これぞ歌舞伎と云う醍醐味を味わわせてくれるものだ。「知らざぁ云って聞かせしょう」から始まる煙管を巧みに使い乍らの黙阿弥調の見事さも、七代目におさおさ劣るものではない。世話物に於ける鯔背な江戸前の味は、まだまだ七代目とは径庭があるが、この弁天や髪結新三は立派な八代目の芸になっていると思う。恐らく七代目は体調の上からもう演じる機会は無さそうに思える昨今、この役では八代目の独走時代が続くのではないだろうか。

 

他の「五人男」幸四郎勘九郎愛之助七之助も、実に見事。それぞれ人物像をきっちり立てており、殊に弁天とのやり取りの多い勘九郎の力丸は、悪の凄みと世話に砕ける愛嬌とが絶妙にブレンドされた素晴らしさ。これは五月の松也より一段上の力丸だったと云えるであろう。昔はいざ知らず、当代最強とも呼ぶべき組み合わせによる「稲瀬川」のツラネも聞き惚れる見惚れるばかりの見事さで、流石音羽屋の襲名公演としか云い様のない豪華版。巳之助の鳶頭も伝法な科白廻しが素晴らしく、歌六の幸兵衛も酸いも甘いも嚙み分けた大店の主人の貫禄がある。ただ鷹之資の宗之助がやや軽く、若旦那と云うより小僧に見えたのが残念ではあったが。しかし総じて令和の決定版とも云うべき見事な「白浪五人男」であった。

 

打ち出しは『三人形』。常磐津の舞踊である。配役は巳之助の奴、隼人の若衆、壱太郎の傾城。二十分程の小品だが、廓通いの様子を描いた美しい舞踊だ。三人共初役の様である。最後を舞踊で〆る狂言立ては筆者好み。まだ三十代の若い三人だが、そも歌舞伎役者は幼少の頃から踊りを叩き込まれるものだ。芝居は兎も角、三十を過ぎれは踊り手としては二十年以上の経験を積んだ計算になる。三人共それぞれ見事な踊りを見せてくれている。中でも巳之助は、奴らしさに加えて力感もしっかりあり、流石舞踊坂東流の家元と云ったところ。隼人の所作も若衆らしい美しさがあり、壱太郎の傾城は立女形の風格すら感じさせる。顔見世公演を締めくくるに相応しい、気持ちの良い舞踊であった。

 

音羽屋襲名披露らしい豪華な座組による、素晴らしい公演であった南座夜の部公演。京都遠征の残る昼の部の感想は、また別項にて。