明けましておめでとうございます。しかしおめでとうを申し上げるのも憚られるくらいの大変な事が元日から発生してしまいました。この寒中に辛い思いでお過ごしの方も多くおられるかと推察致します。羽田空港の事故もあり、亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表したいと思います。
筆者の個人的な備忘録として始めたこのブログも、七年目に入りました。今年もマイペースで好き勝手な事を綴って行きたいと思います。鷹揚のご見物の程、お願い申し上げます。新年一回目は、毎年恒例去年の振り返りから始めたいと存じます。しかしまぁ一年の早い事。つい先日令和四年の振り返りをしていたかと思ったら、もう五年の振り返りです。それでは極私的令和五年のベスト10を発表させて頂きます。
まず第十位
團菊祭五月大歌舞伎より『達陀』
いきなり舞踊です。先々代紀尾井町が創作した舞踊劇。東大寺二月堂の「お水取り」を舞踊化したもの。普通の歌舞伎舞踊とは異なっているのですが、松緑以下、素晴らしい群舞で迫力に圧倒されました。
続いて第九位
松嶋屋の十八番中の十八番。以前も観てはいますが、やはり素晴らしい出来でした。花道を海に見立てて、すっぽんに身体を入れる松嶋屋独特の行き方は、誰かに継承して欲しいですね。
第八位、七位、六位を続けて発表
三月大歌舞伎より『花の御所始末』
「昭和の黙阿弥」宇野信夫が高麗屋に当てて書き下ろした作品に、幸四郎が初役で挑みました。厳密に云うと歌舞伎かどうかは疑問ですが、幸四郎が狂気の将軍足利義教を見事に演じ切ってくれました。
團菊祭五月大歌舞伎より「髪結新三」
菊之助の実に艶っぽい新三。父音羽屋とも違い、既に独自の新三を作り上げています。黙阿弥調の「傘づくし」も見事なものでした。
南座での大和屋と愛之助による「牡丹燈籠」。あまりかかる事の多くない作品で、圓朝を登場させない独特の演出。二人のやり取りが実に見事で、狂気にとらわれる伴蔵を、愛之助がしっかり演じてくれました。
続いて第五位
南座吉例顔見世興行より「七段目」
團十郎襲名公演の「一力」。松嶋屋と芝翫が正に傑作とも云うべき出来。十二月の公演なので記憶が生々しいと云う事もありますが、見事五位にランクインしました。
そして第四位は
去年の孝玉の共演ではこれがベスト。特に大和屋のお岩は実にリアルで、恐ろしくも切ない見事なお岩様でした。これは毎年観たい狂言です。
いよいよベストスリーの発表です。
まず第三位
十一月吉例顔見世大歌舞伎より『鎌倉三代記』
当代屈指の丸本役者芝翫の、実に見事な高綱。梅枝の時姫も素晴らしく、これぞ令和の丸本。梅枝は早速今月初台で葛の葉姫に挑む様で、この優の丸本女形としての成長をリアルタイムで見れるのは、仕合せな事です。
そして第二位
襲名狂言はランクに入れない特別枠にしているのですが、去年の團十郎襲名公演は一度しか観ていないので、ここに入れます。素晴らしい助六、これぞ助六。何度でも観たいと思わせる実に結構な助六でした。
そして栄えある(?)第一位は
壽 初春大歌舞伎より『十六夜清心』
個人的に令和の孝玉と考えている幸四郎と七之助の組み合わせによる清心と十六夜。あまり組むことのない二人の共演が第一位に輝きました。一月の狂言にも関わらず、その記憶は鮮烈でした。もう少しこの二人を組ませて下さいよ、松竹さん。
この他にも、菊之助の「道成寺」や、国立劇場さよなら公演の『妹背山婦女庭訓』など、記憶に残る素晴らしい狂言が幾つもありました。しかし歌舞伎ではないのですが、筆者の観た去年最高の芝居は「ラ・マンチャの男」です。これぞ魂の芝居でした。高麗屋にはこれからも健康に留意され、素晴らしい芝居を見せ続けて欲しいと思っています。コロナも収まってきて、歌舞伎座も去年四月から通常の二部制に復しました。今年も、良い芝居が沢山観れる事を祈ります。