fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

十二月大歌舞伎 第一部 愛之助・松也の『弥生の花浅草祭』、第二部 七之助・中車の『心中月夜星野屋』

十二月大歌舞伎一部・二部を観劇。その感想を綴る。

 

一部は愛之助と松也による変化舞踊『弥生の花浅草祭』。「三社祭」として上演される事は多いが、この通しはあまりかからない。数年前に松緑坂東亀蔵で観た舞踊。愛之助は出石で踊った事があるそうだが、松也は初役。ただ「三社祭」は自主公演で踊ったのが初めてだったとの事。

 

四変化の踊り分けだが、常磐津→清元→常磐津→長唄と伴奏が変化して行くのも面白い趣向。幕開きは常磐津で「神功皇后武内宿禰」。ここではまず松也の神功皇后がいい。この優は女形出身だが、どこか動きが硬く感じられるのが難点だと思ってきたが、この神功皇后は優美な中にも女武人としての強さもあり、気品も備わっている。そして尚且つ美しい。この松也は当たりだ。

 

続いて「三社祭」。ここは四世楳茂都流家元の肩書を持つ愛之助がリードする。例の「悪玉」「善玉」の踊りだが、愛之助の舞踊は派手さはないがきっちり踊る技術がある。悪七別当、悪禅師、悪源太の「悪づくし」も規矩正しい舞踊。筆者的には自分流に崩しながら自在に踊る猿之助の様な踊りの方がこの場にはあっているとは思うが、舞踊としては本寸法な見事な踊り。延寿太夫の清元もいつもながら素晴らしい。

 

常磐津に戻って「通人・野暮大尽」。ここはまた通人の松也がいい。先述した動きの硬さが取れてきているのが、この場でも感じられる。そして最後「石橋」での二人揃った毛振りとなる。ここはもう花形らしい勇壮な狂い獅子で、見事なもの。横振りから立振りになる辺りもきっちり振り分けて、ドラマ「半沢」コンビの変化舞踊、会場も大いに盛り上がった。

 

続いて第二部『心中月夜星野屋』。落語「星野屋」を元にした新作歌舞伎で、初演は筆者も観ている。七之助のおたか、中車の星野屋、片岡亀蔵の藤助、お熊の猿弥と云う配役。初演時と母お熊が変わっている他は同じ配役。何も考えずに素直に笑えるいい狂言だ。評判が良いからこそ、三度目の上演となっているのだろう。

 

星野屋に身請けされている元芸者のおたかと、星野屋との心中をめぐるドタバタ劇。こう云うのは理屈ではなく、楽しめるか楽しめないか。結論から云うと、筆者は大いに楽しませて貰った。七之助演じるおたかは、品行方正ではないが、決して悪女と云う程のものではない。ただ初演時は母お熊に引き摺られるだけの主体性のない女と云う印象だったが、今回はお熊がリードはするのだが、自らも見せかけ心中計画に関わる積極性が出ている。

 

新作歌舞伎なので、登場人物がしばしば切る見得や、歌舞伎調の科白廻しは特に芝居的な効果を狙って挿入されているものではない。今回観ていて改めて思ったのだが、これは歌舞伎による歌舞伎のパロディーなのだ。それに眉をしかめる向きもあろうかと思うが、お年寄りがまだ歌舞伎座に戻って来ていないと云われる昨今、比較的若い観客を取り込むには、いい狂言だと思う。

 

初演時の獅童から代った猿弥のお熊は、こう云う役をやらせたら右に出る歌舞伎役者はいない。アドリブをふんだんに取り入れ七之助がついていけない場もあったが、×と書かれたマスクをしたり、海老蔵のCMネタを入れたりとやりたい放題で、場内爆笑の渦であった。

 

中車も花道の引っ込みで「半沢」調の「DEATH!」を取り入れるなど、比較的演者の自由裁量に任せている場も多く、男女の化かし化かされ劇を大いに楽しませて貰った。ただ一つ違和感があったのが、第二場「吾妻橋の場」で、橋がかかっている下に暗くしてはあったが、前場の「稽古屋座敷の場」のセットがまんま残されていた事。八月の再開場以降舞台転換の必要がある狂言を極力さけて、一場の芝居をかけて来ている歌舞伎座。回り舞台装置を使わない為の苦肉の策だとは思うが、そこまでして回り舞台使用をNGにする必要性があるのだろうか。今は自動で動かしているので、それほど人手は必要ないと思うのだが・・・。

 

今年も押し詰まってきた。この後観劇予定の芝居は3つ。コロナで今年は例年より大分少ない芝居見物になってしまったが、楽しめる舞台を期待したい。