fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

八代目菊五郎誕生!

先日来年五月歌舞伎座の團菊祭に於いて、菊之助が八代目菊五郎、丑之助が六代目菊之助を襲名すると発表された。遂に令和の歌舞伎界に同世代(と云うか同い年)の團菊が誕生する事になる。これ以上の目出度い話しはない。高麗屋の三代襲名以降、歌舞伎界は名跡の生前贈与がブームの様になっている。来月は時蔵名跡がやはり生前贈与される。当代の死を待っての襲名より、この形の方が良いと個人的には思う。畏れ多い話しではあるのだが、ご皇室も陛下の御位をやはりご生前中にご譲位されておられる事でもあるし。

 

その当然とも思える菊之助菊五郎襲名より驚かされたのは、当代菊五郎は隠居名を名乗らず、菊五郎のままだと云う事だ。何と團十郎と並ぶ大名跡菊五郎が二人並び立つ形となるのだ。これには本当に驚ろかされた。一部で梅幸を名乗るのではと云う話しも耳にしたが、筆者はないと思っていた。梅幸は立派な一枚看板の名跡で、隠居名として名乗る名前ではない。遠い将来の話しだが、丑之助が菊五郎に、眞秀が梅幸になるのではないだろうか。

 

当代菊五郎名跡を変更しないのであれば、襲名公演及びその後の一連の巡業に列座する必要は必ずしもない。これは完全に筆者の推測ではあるが、当代は来年以降の自分の健康状態に自信が持てないのではないだろうか。確かに最近の舞台は動きのない役のみを勤めている状況ではあるし、足取りも少々危なっかしいところがある。正座も厳しいのかもしれない。その状態で改名して襲名公演に自分が休演となれば、これは形にならない。かと云って引退なぞはとんでもない事。そこで窮余の策として、自らは改名せず、名跡のみを生前贈与すると云う決断に至ったのではないだろうか。

 

確かに二人菊五郎には違和感があるが、これは上記事情を考えれば致し方なかったのであろう。役柄は限定されるとは思うが、当代にはまだまだこれからも元気に舞台を勤めて貰いたいと願ってやまない。出て来ただけで江戸の風情を感じさせてくれるその至芸は当代無二。健康にだけは充分留意して、今後も長くその名人芸を披露し続けて欲しいものだ。

 

これでかつての三之助が全員大名跡を襲名する事になる。令和の歌舞伎界に團十郎菊五郎松緑が並び立つのだ。加えて同世代には幸四郎もいる。名前を並べただけでわくわく感が止まらない。勘九郎も遠くない将来に勘三郎を襲名するだろう。少し上の世代には鴈治郎芝翫もいる。残るは福助の病で襲名が無期延期となっている歌右衛門と、まだまだ元気とは云え当代が傘寿を迎えている仁左衛門名跡がどうなるのかと云う事だろう。

 

松嶋屋には愛之助と云う立派な跡取りがいるが、歌右衛門はどうなるのであろうか。福助が今の状態では、体力のいる襲名興行が出来るとは残念乍ら思えない。福助には児太郎と云う惣領がいるものの、まだ福助にもなっていないので、歌右衛門を襲名出来る状態ではない。加えて成駒屋には五代目の遺言で、福助名跡を途切れさせてはならないと云う絶対的な縛りがある。児太郎が襲名するとすれば、やはり福助以外には考えられないが、当代に福助がいる以上これをどうするのか。松竹も頭が痛い事だろう。まさかこちらも二人福助と云う形になるのであろうか・・・。

 

まぁ何にしても、今回の襲名は嬉しい限り。来年の團菊祭が今から待ち遠しい気持ちだ。菊之助には、今の名前の内に益々芸を磨いて頂き、立派な八代目になって欲しい。襲名狂言には弁天小僧や道成寺と云った家の芸に加え、「寺子屋」の松王が選ばれている。これは音羽屋の世話物だけではなく、岳父吉右衛門播磨屋の芸も継承して行くと云う宣言に他ならない。筆者は先日の菊之助松王には少々厳しい事を云ったが、菊之助の時代物はまだまだこれからだと思う。襲名と云うのは魔物で、芸が一気に深化すると云う実例を、近年では幸四郎で目の当たりにしている。時代・世話・女形、何でもござれの大きな八代目となってくれる事を、願ってやまない。