fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

秀太郎急逝。。。

先月23日、片岡秀太郎が亡くなった。八十歳になる直前だった。先日なくなった田村正和の2歳上、現代ではまだまだ若い年齢での逝去だった。残念でならない。松嶋屋三兄弟の中では一番丈夫そうに思えていたので、本当に驚いた。

 

私が秀太郎の存在を知ったのはいつだったろう。NHK大河ドラマ獅子の時代』の松平容保役だったろうか。このドラマには橋之助時代、いやまだ幸二だったかもしれない芝翫音羽屋も出ていた。文太兄ィが実にカッコ良く、秀太郎は正直あまり印象に残っていない。

 

その後高田美和の夫であると知った。スャンダルや離婚もあったので、いい印象はもたなかったと記憶している。やがて歌舞伎を観る様になって、秀太郎が凄い役者である事を知る様になる。「盛綱陣屋」の微妙や「吉田屋」のおきさ、「先代萩」の栄御前、『国性爺合戦』の渚など、それこそ観劇した芝居は枚挙に暇がない。派手さこそないが、役の勘所を押さえた実に見事な芝居を幾つも見せてくれた。

 

まだまだその素晴らしい芝居を観れるものと思っていたので、逝去の報には力が抜けた。最後に観たのは去年二月、父十三世仁左衛門の追善公演での『道行故郷の初雪』だった。比較的老け役の多い優だったが、この時の梅川には驚かされた。齢八十に近い優とはとても思えない瑞々しさで、相方の梅玉と実に見事な道行を見せてくれた。まさかあれが最後になってしまうとは・・・

 

筆者にとって強く印象に残っているのは二年前の一月、『絵本太功記』だ。この日は昼夜通しで観劇したのだが、昼の部には出ていた東蔵が体調不良で夜の部を休演。皐月を急遽秀太郎が代演した。何せ昼には出ていた役者の代役である。事前に準備の出来ようはずもない。しかも「尼ヶ崎閑居の場」の皐月は大役である。いくら演じた事がある役とは云え・・・と思ったのだが、これが実に素晴らしかった。プロンプターも付けずにこの大役を完璧に演じ切った秀太郎の力量には、改めて瞠目させられたのを覚えている。

 

去年の山城屋に続き、昔ながらの名人が次々去って行ってしまうのは、時の流れとはいえ寂しい事この上ない。弟仁左衛門もさぞかし力を落としているだろうと推察するが、健康には充分留意して、長く松嶋屋の芸を披露し続けて欲しいと願うばかりである。

 

改めて名人秀太郎のご冥福を、心よりお祈り致します。合掌。