fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

十月大歌舞伎 第一部 芝翫・七之助の『京人形』、第四部 大和屋の『楊貴妃』

十月大歌舞伎を観劇。一部と四部の感想を綴る。

 

一部は『京人形』。芝翫の甚五郎、七之助の京人形、門之助のおとく、新悟のおみつ実は井筒姫と云う配役。甚五郎が廓で見染めた小車太夫のことが忘れられず、太夫に生き写しの人形を彫り上げる。甚五郎の思いがこもった人形が踊りだし、連れ舞いとなる舞踊劇。これが実に良かった。

 

何より芝翫の甚五郎がいい。後半の左手を怪我で吊った状態での立ち回りがいいのは、この優なら当然の事だが、前半の人形との連れ舞いが実に味わい深い。軽さと和か味の中に、しっかりと芯がある。芝翫は現在五十代半ば。まだまだ身体が動く上に、円熟味が加わり、花形にはまだ出せない風情がある。技術に味わいがいい具合にブレンドされて、一番良い年代にさしかかっているのだろう。ここから六十代に向けて、益々円熟して行く芝翫の今後が楽しみだ。

 

七之助の京人形も無論いい。クールに冴えた美貌が人形にぴったり。そしてそれが動き出すのだが、甚五郎の気持ちが入っているので男の所作になる。それが鏡を懐に入れると、とたんに女性になる、その変り方が上手い。声出しNGの客席も笑いに包まれる。そしてその踊りの美しさは天下無類の女形舞踊。これぞ時分の花の芸だ。時間にして40分程度のものだが、楽しませて貰った。

 

二部・三部はまだ未見で、続いて第四部。先月に引き続き大和屋の口上と、映像ミックスの『楊貴妃』。先月もそうだったが、歌舞伎座の大舞台に独りで口上を述べる姿と云うのは、あまり見られないので、それはそれで貴重なもの。花道のすっぽんから舞台下に降りて映像で奈落を紹介。ここは先月も同じだったので、またかの感があるが、今月はその後大和屋の楽屋が映し出される。大和屋の楽屋など無論筆者は見た事がないので、ここは実に興味深かった。

 

そして3年前の中車との共演映像が映し出され、それとシンクロする形で実物の大和屋演じる楊貴妃が登場。先月の『鷺娘』は実際には部分的にしか踊らなかった大和屋。今月は口上で「これはまだ踊り納めておりませんので」と云っていた通り、方士の中車は映像だが、楊貴妃はフルで踊ってくれた。踊りとしては大した内容ではないので、(そもそも振りが日本舞踊ではない)その意味では先月の『鷺娘』の方が断然良いが、今回は踊りとしては全て実物の大和屋で観れた。痛し痒しといったところだが、やはりその美貌と所作の美しさには瞠目させられる。こう云っては身も蓋もないが、方士の中車は特にしどころがある訳ではないので、この舞踊なら映像ミックスもありかと思う。

 

今月は後残りの二部・三部と国立劇場を観劇予定。感想はまた改めて綴ります。