fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

團菊祭五月大歌舞伎 夜の部 七代目丑之助襲名披露、松也・彦三郎の「御所五郎蔵」

五月大歌舞伎夜の部、「娘道成寺」以外の出し物について綴る。

 

幕開きは『鶴寿千歳』。時蔵の雌鶴、松緑の雄鶴を囲んで、梅枝・歌昇・萬太郎・左近と若手花形が揃った舞踊。時蔵松緑はその技巧、位取り、気品と文句なし。若手花形もこの年代特有の華やかさがあり、新元号・令和を寿ぐいい舞踊になっている。左近はまだ多少他の演者を見ながらと云う部分はあるが、先輩達について健闘していた。踊りはお父さん譲りの筋の良さを感じる。芝居も観てみたいものだ。

 

続いて菊之助の長男和史君が、七代目丑之助を名乗る初舞台『絵本牛若丸』。父菊之助も同じ狂言で丑之助を襲名した音羽屋所縁の芝居だ。六歳の男の子の襲名に、音羽屋・播磨屋の両巨頭が並び、時蔵雀右衛門松緑海老蔵左團次と揃う豪華な一幕。流石最強DNAの御曹子、彦三郎・亀三郎の襲名より一段と顔ぶれが上がってしまうのが恐ろしい。内容はどうと云う事もない。丑之助を幹部花形総出で盛り立てる。しかし芝居ではあれほどの名調子を聞かせてくれる播磨屋が、口上になるととたんにぐだぐだ。つっかえつっかえだわ、孫の本名を忘れるわ、かなりハラハラさせられた。場内も笑いに包まれ、ご愛敬と云った雰囲気だったが。

 

娘道成寺」を挟んで、最後は『曽我綉俠御所染』。松也がいきなり歌舞伎座で初役の五郎蔵に挑む。彦三郎の土右衛門、亀蔵の与五郎、梅枝の皐月、右近の逢州と若手花形で固める中、お目付け役とばかり橘太郎が吾助で出る。やはり令和の團菊祭を考慮した座組だ。今回は両花道ではなく、五郎蔵は舞台上手から出て来る演出。松也は精一杯の演技だが、やはりつらねは黙阿弥調になっていない。その点では去年巡業で一度つとめている彦三郎に一日の長がある。

 

しかしこの芝居がつまらなかったかと云うとさに非ず、筆者はとても楽しめた。その理由の第一は梅枝・右近の両女形の良さだ。ことに右近は若き日の大和屋を彷彿とさせる様な美しさがあり、五郎蔵を宥めて説き聞かす所、情も理もある素晴らしい逢州。また梅枝が、心ならずも愛想尽かしをする皐月の心情を良く表出していて、その辛い心持ちが客席にも伝わって来る。五郎蔵が土右衛門とその門弟になじられているやり取りも肚で受けていて、歌舞伎座では初役らしいが、手一杯の出来。この女形二人がいいので、「甲屋奥座敷の場」が実に見ごたえがある。

 

松也の科白回しは現代調が混じるのが気にはなるが、色男だが結局皐月と心中してしまう優男ぶりがニンに合っており、総体的に初役としては悪くない。黙阿弥調はこれから勉強の必要アリだが。彦三郎は巡業の初役より一段こなれて来ており、悪が効いていて、手強い出来。これは持ち役になるかもしれない。

 

最後の「五条坂廓内夜更けの場」は、さすが松也は若いだけに身体が良く動き、いい立ち回り。そしてこの場でも右近の逢州が、人違いで切られる哀れさを見事に表現していた。「対面」での大磯の虎と云い、今月の右近、大手柄だったと思う。そして脇では橘太郎の吾助が、出番は短いが舞台をしっかりと締めていた。総じて若手花形手一杯のいい打ち出し狂言となった。

 

今月はいよいよ三谷歌舞伎が歌舞伎座初お目見え。どんな事になりますか、今から楽しみだ。