fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

二月大歌舞伎 夜の部 松緑の『名月八幡祭』

二月の夜の部松緑2度目の「縮屋新助」その感想を綴る。

 

こちらも辰之助の追善狂言松緑の新助、大和屋の美代吉、松嶋屋の三次、梅玉の慶十郎、歌六の魚惣と云う配役。全てが本役で、二月の出し物では、「熊谷陣屋」に次ぐいい狂言だった。

 

筆者は松緑初役の時も観ているが、その時は美代吉が笑也、三次が猿之助だった。勿論笑也も猿之助もいい役者なのだが、やはり大和屋と松嶋屋は格が違う。笑也は冷たい女と云う印象だったが、大和屋の美代吉は全然違う。とても可愛らしい女なのだ。松嶋屋の三次もしょうもない男なのだが、何とも云えない色気があり、しかも母性をくすぐる甘え上手ときている。典型的なヒモ男で、この色気には美代吉ならずとも離れられないだろうと思わせる。

 

大和屋の美代吉は、深川芸者のきっぷの良さと艶っぽさを兼ね備えた正に当代の美代吉。決して悪女ではなく、確たる生き方を持っていない、ただ行き当たりばったりの女として大和屋は演じている。そこが実に可愛いのだ。何と演じるのは32年ぶりとの事だが、実に見事だ。松嶋屋の三次も36年ぶりだと云う。一月の白鸚の大蔵卿と云い、この名人クラスになると何十年ぶりと云うのは関係ないのだと、感心するしかない。

 

この名人二人に引っ張られて、松緑が新助を大熱演。初役の時より格段に良い。元々ニンにある役だと思うが、序幕での実直な人物造形がしっかり出来ているので、騙されたと知った時のキレぶりが実に迫力があり、その無念の思いが、客席にもしっかり届く。これは持ち役になるだろう。立派な追善狂言だった。天国で辰之助も肯いているのではないだろうか。

 

脇では歌六の魚惣が絶品。こう云う役をさせたら、歌六は当代無双。情味がある実にいい魚惣だった。梅玉の慶十郎も本役。殿様役者の本領発揮と云ったところ。たっぷりと堪能せさて貰った。

 

この芝居の前に『當年祝春駒』。今月も登場した曽我狂言梅玉の祐経、錦之助の十郎、又五郎の朝比奈に囲まれて左近が五郎で、少年ながらも凛としたいい形を見せ、踊り上手な松緑のDNAをしっかり感じさせた。松緑も自分の事以上に気がかりだったろうが、立派に勤め上げていたと思う。

 

「熊谷陣屋」に「縮屋新助」と立派な狂言が揃い、大満足の夜の部だった。今月は高麗屋親子に松嶋屋猿之助と揃うこれまた豪華な狂言立て。今から観劇が楽しみだ。