今年も時間と財政の許す限り歌舞伎を観てきた。その総括をしたい。
今年は何と云っても高麗屋三代襲名の一年だった。歌舞伎座に始まり、御園座、博多座、大阪松竹座、南座と、私は全公演を観劇する事が出来た。襲名演目は下記になる。
一月歌舞伎座
『菅原伝授手習鑑』車引・寺子屋
『勧進帳』
二月歌舞伎座
『一條大蔵譚』檜垣・奥殿
『一谷嫩軍記』熊谷陣屋
『仮名手本忠臣蔵』七段目
四月御園座
『籠釣瓶花街酔醒』
『勧進帳』
『廓文章』吉田屋
六月博多座
『慙紅葉汗顔見勢』伊達の十役
『新皿屋舗月雨暈』魚屋宗五郎
『春興鏡獅子』
七月大阪松竹座
『天衣紛上野初花』河内山
『勧進帳』
『女殺油地獄』
十一月南座
『連獅子』
『御存 鈴ヶ森』
『勧進帳』
『雁のたより』
「車引」と「寺子屋」はそれぞれ独立して演じられたので、計19演目。我ながらよく観たものだ。その中でも『勧進帳』が四回。改めて高麗屋にとってこの演目が大切なものである事が判る。襲名披露を通じて感じた最大の事は、このブログでも度々触れてきたが、新幸四郎の著しい進境だ。芸格が一回りや二回りどころではなく、倍以上になったかの様に思われる。四月の御園座あたりまでは、「ニンにない役に挑んで健闘しているな」と云う印象だったのが、六月の博多座になるとガラっと変わって、素晴らしい芝居を見せてくれた。昼の部「伊達の十役」が圧倒的で、中でも政岡が圧巻だった。そのあたりはブログでも触れたので繰り返さないが、来年以降も幸四郎から目が離せない。
新白鸚は言葉の真の意味での円熟した芸を見せてくれており、演じた演目は少なかったが、その一つ一つの充実ぶりは素晴らしかった。来年はまたラマンチャにも挑むと云う。健康にだけは留意して、これからもその素晴らしい芸を披露し続けて欲しい。一月の大蔵卿も、今から楽しみだ。
新染五郎は、実質今回の襲名がデビューみたいなものだろう。まだ芝居を云々する段階ではない。ただ南座で見せた仔獅子は、将来の大器を思わせるに充分のものだった。この優には比類ない美貌と、生来の気品がある。お祖父さん、お父さんを手本とし、頑張って欲しいものだ。
最後に最も印象的だった襲名狂言をあげておくと、幸四郎はやはり「伊達の十役」、そして白鸚は何と云っても「七段目」。白鸚の由良之助は、今まで筆者が観た数多い由良之助の中でも、最高のものだった。
今回は高麗者襲名狂言についてのみ取り上げた。それ以外の公演の私的総括は、また別項にて綴りたい。