fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

芸術祭十月大歌舞伎 松嶋屋の『助六』

続いて夜の部『助六曲輪初花桜』の感想を綴る。

 

またまた松嶋屋がやってくれました。襲名以来20年ぶりとなる歌舞伎座での『助六』。今の松嶋屋助六はどうなのだろうと思っていたのだが、いやいやどうして素晴らしかった。もう花道を出てきた時から歌舞伎座全体が明るくなる。正に日本一の色男。古希を過ぎてこの色気は凄い事だ。

 

助六はニンとしては海老蔵が何と云ってもぴったり嵌るのだが、その色気、華やかさ、科白まわし、そして荒事芸の見事さ。まだまだ海老蔵松嶋屋には及ばない。昨年の海老蔵助六は今一つ冴えなかった。

 

海老蔵との比較はともかくとしても、正に当代の助六だった。松嶋屋の科白まわしは天下一品であるが、その名調子が冴えわたる。「煙管の雨がぁ降ぅる様だぁ」のお決まりの科白を始めとして、全編にわたり松嶋屋の科白まわしが堪能できる。

 

意休に詰め寄っての「抜け抜け、抜けねぇかぁ」のイキも抜群。門兵衛や朝顔仙平をやり込めた後の、それに続く立ち回りも力感に溢れつつも美しく、松嶋屋の芸の円熟を感じさせる。その一方で新兵衛や満江の前で恐れ入るところや、股くぐりの場で見せる愛嬌。豪快さと和かさを兼ね備えた見事な助六だった。

 

七之助の揚巻は、酒に酔っての花道の出は段取りをこなすだけで手一杯な感じだが、舞台に回った後は安心して観ていられた。その美しさは正に「時分の花」。「間夫がなければ女郎は闇」の科白まわしもキッパリとしていて、意休への悪態の長科白はかなり聞かせてくれる。初役としては上々の出来だった。ただ松嶋屋と芸格が揃っていないので、釣り合いと云う意味では苦しい。まぁこれは致し方ないのだが。

 

芸格が揃わないのは勘九郎の新兵衛も同様。勘九郎の芝居を単体で観れば、見事な新兵衛。愛嬌もあり、科白まわしも初役とは思えない堂に入ったもの。助六海老蔵だったならば、より映えたろうと思われる。しかし松嶋屋助六を一番間近で25日間見れるのだから、何より勉強になる事だろう。

 

脇では又五郎の門兵衛が流石の出来。歌六の意休も勿論悪くはないのだが、左團次に比べると手強さに欠け、やや小ぶりな印象。玉三郎の満江は悪かろうはずもないが、やはりこの人は揚巻で観たい。彌十郎の通人が「勘三郎が生きていたら」と泣かせる科白を入れてくれていた。

 

総じて松嶋屋が図抜けて素晴らしく、一点非の打ちどころのない助六。襲名以来と云うペースを見ると、これが歌舞伎座最後の助六だろうか・・・。年齢的に厳しいものがあるとは思うが、白鸚が弁慶をやるのなら、松嶋屋もまだまだ頑張って助六を演じて欲しいものだ。

 

長くなったので、他の狂言はまた別項で。