公文協巡業東コースの初日を観劇。その感想を綴る。
まず『近江のお兼』。成田屋の変化舞踊で、六代目も手掛けた踊りに梅枝が初役で挑む。先にお父つぁんの時蔵も『女伊達』を歌舞伎座で踊ったが、同趣向の作品。梅枝は先に書いたが、若手女形ではNO.1だと個人的には思っている。愛嬌もあり、女伊達らしくすっきりしていていいお兼。芝居だけでなく、こう云う舞踊もどんどん踊りこんで行って欲しい。
続いて『御所五郎蔵』。江戸川区総合文化センターと云う会場だったのでやむを得ないが、花道が短くてしょぼい。この狂言には向かないハコだったと思う。まぁそれはさて置き、菊之助の五郎蔵は声良し、形良しで観ていて惚れ惚れする位の五郎蔵。序幕の「甲屋の場」は姿と科白で魅せる場なので、文句なく素晴らしい。
ただその後の「甲屋奥座敷の場」「廓内夜更けの場」になると、いかにも水っぽい。肚が薄いせいだろう。特に「廓内夜更けの場」で皐月と勘違いして逢州を殺してしまったと知ったところなど段取りめいていて、主君の想い人を殺してしまったと云う驚きと慚愧の念が出てこない。菊之助は大好きな優なのだが、役の性根と云うものを掴む芝居を身につけて欲しい。
同じ事は土右衛門の彦三郎にも云える。声は抜群の優だが、一本調子になって芝居にメリハリがない。劇団には素晴らしい役者が大勢いるし、何よりお父つぁんが素晴らしい役者なのだから、名前だけでなくしっかり芸も受け継いで貰いたい。
この日一番の見物だったのは、最後の『高坏』。菊之助初役らしいが、これが素晴らしい出来だった。愛嬌の薄い優だが、この狂言では過不足ない愛嬌があり、何より下駄を履いてタップを踏む場面は踊りにキレがあって、亡き勘三郎におさおさ劣らない次郎冠者。観ているこちらがうきうきして来る。これがいい舞踊と云うものだろう。
萬太郎の高足売も初役としては申し分なく、いい意味での軽さがあって良かった。名人團蔵と橘太郎がしっかり脇を締めて、客席も大いに沸いており、いい『高坏』になった。先の『御所五郎蔵』は残念だったが、この『高坏』が観れただけで、来た甲斐はあると思った。
まだ初日と云う事もあろう。長い巡業なので、『御所五郎蔵』もしっかり練り上げて行って欲しい。