備忘録代わりに始めたブログなので、去年の備忘録として、特に印象に残った10本の歌舞伎を書き留めておきたいと思う。
明確な順位づけではないのだが、まず10位から
『藤娘』七之助/白河町東座
いきなり舞踊です。岐阜迄出向いて観劇(筆者東京在住)。芝居小屋らしい雰囲気の中で、若手花形正に「時分の花」真っ盛りの七之助の可憐な藤娘。芝居小屋のアナログ感が踊りとマッチしていて、歌舞伎座で観た玉三郎より印象的だった。
続いて9位
11月の顔見世より。松嶋屋の勘平は当代最高だと改めて実感。染五郎(当時)の斧定九郎の、ほつれ髪をかき上げる場面の色気、孝太郎のおかるの、戸口での思い入れも印象深い。
お次は8位
一谷嫩軍記 『熊谷陣屋』 芝翫他/アクトシティ浜松
公文協西コース巡業より。芝翫型の熊谷。襲名時よりもより一層練り上げられて素晴らしい出来だった。扇雀の相模が、私が今まで生で観た相模の中では情愛深く、一番良かった。余談だが、公演翌朝のホテルのレストランで、梅花丈と思しき人が、一人朝食を摂っている姿を見かけた。顔もしていない(当然だけど)ので、本人だったと確証はもてないけど・・・
続けて7位と6位
倭仮名在原系図 『蘭平物狂』 松緑他/歌舞伎座
十二月大歌舞伎より。松緑が一世一代と発言していた公演。とにかく松緑の奮闘ぶりが凄まじい。これで演じ納めは勿体無い。まぁ体力的にしんどいのだろうが・・・。巳之助にちゃんと継いで欲しい。
四月大歌舞伎より。また熊谷かと云われそうですが、いいものはいいのだから仕方ない。九代目として最後の熊谷を花道脇で観劇。先にも書いたが、台詞を云わなくても、花道を出てきたその姿が熊谷そのもの。私のすぐ脇に熊谷がいる!とひたすら感激。
さてTOP5。5位・4位を続けて
四月大歌舞伎より。仁左衛門マナーの素晴らしい貢。初役らしいけど、最後の奥庭の凄惨な殺しの場面でも凄みの中に色気があり、申し分のない出来。これは当たり役になると確信。貢が出来る高麗屋、楽しみです。猿之助と萬次郎の両女形の好演も光った。
11月の顔見世より。九代目最後の演目。以前より感情の迸りを抑えた演技が印象的。初一念を通してその最期を潔く飾ろうとする大石の姿に涙。児太郎のおみのが、お父さんに及ばないのは致し方ないが、初役としては健闘していたと思う。楽日に観劇したので、歌舞伎座では珍しいカーテンコールに得した気分だった。
いよいよTOP3。まず3位
恋飛脚大和往来 『新口村』
11月の顔見世より。また11月かよと云われそうだが、これもいいのだから仕方ない。いや~泣かせて頂きました。ほとんど三人だけの芝居だが、風情だけで充分見せる藤十郎、情深くしっとりとした梅川の扇雀、思い切ろうとして思い切れない親の情溢れる歌六、全てが素晴らしかった。特に扇雀は巡業の相模といい、この梅川といい、帯屋のお絹といい、文句のつけようのない大活躍。個人的に昨年の女形大賞(そんなものないけど)はこの優にあげたい。
続いて2位
猿若祭二月大歌舞伎より。個人的にはこれが昨年最大の収穫だったかもしれない。正直あまり期待していなくて、いい意味で完全に裏切られた。孝玉じゃないとな~と思いつつ観たらとんでもない。染五郎(当時)の白塗りがいいのは想定内ではあったし、菊之助も好きな優ではあったけれど、仇吉をここまでやるとは。「いい男だねぇ」この仇吉の台詞が今でも耳から離れない。深川辰己芸者の意気地と色気。加えて勘九郎の米八がまた良かった。時に歌舞伎の枠をはみ出してしまうお父さんより良いのでは?これまた感心。脇では亀鶴の左文太が小悪党ながら色気もあり、印象的だった。
そして栄えある(?)1位は
六月大歌舞伎より。九代目が見せる藤三郎の軽妙さ、そして何より高綱になってからの古怪さ、見事なものだった。その大きさ、その見得の立派さ、一点非の打ち所のない高綱だった。これぞ丸本歌舞伎。加えて襲名以来二度目になる雀右衛門の時姫がまた素晴らしかった。夫への思いの為に父を討つ覚悟を示す、情のこわさをしっかり表現していた。この優は襲名以来、バットに当たればヒットの感があり、見事な高打率ぶり。新歌舞伎座の立女形の座へと、着々と歩を進めていると見えた。松也の三浦之助は、この二人に挟まれては批評云々は可愛そう。だかその若い情熱は買いたい。いずれにしても昨年私が最も魅了された舞台だった。
高麗屋メインで播磨屋は?音羽屋は?と云われそうだが、私の独断と偏見ではこうなったのだから致し方ない。音羽屋の世話狂言の芸は、益々円熟して見事だった(宗五郎や直侍)けれど。播磨屋は打率は高かったが、一昨年の大判事の様なホームランはなかったイメージ。勿論個人的な感想だが。
以上、極私的平成29年歌舞伎ベスト10でした。