fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

高麗屋三代襲名(夜の部)

引き続き夜の部

 

幕開きは『角力場』これは何と云っても芝翫の濡髪が素晴らしい出来。雀右衛門の襲名でも演じた役だが、更に手の内に入って新歌舞伎座の堂々たる座頭の貫禄たっぷり。一昨年の襲名で熊谷を観たが、去年の巡業の熊谷がより練れた出来で、芝翫襲名以降のこの優の充実ぶりは目覚しい。押し出しの立派さ、日下開山としての大きさ、現大幹部の後を襲う座頭として申し分ない濡髪だった。これに比べると愛之助の放駒はまだ芝居の描線が弱い印象。もう一役の与五郎の方が、上方和事でニンにも合い、いい出来。

 

総勢22名の幹部役者が揃う豪華な口上は、観ているだけで壮観。ただ藤十郎の口跡が少しはっきりしなくなってきているのが心配。芝翫の時と違い、大幹部の白鸚はいじり辛いのか、口上は総じて皆大人し目。まぁ当たり前ですな。

 

次はお目当て新幸四郎による『勧進帳』。正月のTV放送でダイジェストを観た時は、この優の課題であるところの声の弱さが露骨に出ていて心配されたが、私が観た回(4日)は大きく修正されていて、意外と云っては失礼だが、かなり台詞が通る様になっていた。勿論お父さんや叔父さんにはまだまだ比べるべくもないが、2回目で比べられても困るだろう。

 

しかし所作はきっぱりしていて立派な弁慶。叔父さんの富樫が、我関せずと自分のペースで大熱演してしまっていたので、どうしても大きな富樫に挑む若き弁慶と云う様な構図になってしまっていたのは是非もないが、新幸四郎としては手一杯の出来だったのでは。花道でしゃがんでの義経とのやりとり、台詞まわしのトーンなど、今回は吉右衛門マナーに習ったのではないと思われる感があったのが興味深かった。踊りが上手い人だけに、延年の舞は見事なもの。飛び六方の引込みも若々しくて勢いがあり、総じていい弁慶だった。身内に最高の弁慶役者白鸚吉右衛門がいるのは大きなプレッシャーだろうけど、考えようによってはこれほど恵まれた環境もない。二人のいい所を折衷して、自分なりの弁慶を作り上げて行って欲しい。

染五郎義経は、台詞まわしがまだまだ教習所レベルなのは致し方ないが、その気品は持って生まれた物だろう。名門高麗屋の御曹司らしく、その風姿はいい義経だった。まぁとにかくここからスタート。美貌は比類ないだけに、将来楽しみです。

 

しかし播磨屋の富樫は当たり前だが上手い。台詞まわしと云い、その気迫と云い、情味の深さと云い、当代の富樫だろう。四天王が豪華メンバーで襲名狂言に華を添えていた。

 

最後は『相生獅子』と『三人形』の舞踊2題。個人的に最後を舞踊で〆てくれる構成は好き。雀右衛門鴈治郎又五郎揃っての最後の踊りは、豪華フルコース料理を締めくくる食後の贅沢なデザート感があり(失礼)、堪能出来た夜の部だった。

 

来月の襲名も楽しみです。