fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

六月大歌舞伎 昼の部

六月大歌舞伎を昼夜観劇。まず昼の部から。

 

三笠山御殿』で幕開き。まず楽善の入鹿が、いかにも公家悪らしい大きさと貫禄を出していて、いいオープニング。彦三郎の玄蕃と亀蔵の弥藤次は声の通りがいい優なので、二人の科白はまるで心地よいコーラスを聴いているかの様。その分義太夫味は希薄ではあるのだが。

 

続いて松緑の鱶七が登場。鱶七らしい大らかさを出してはいるが、やはりこの優も義太夫味は薄い。鱶七が奥へ引き立てられた後、求女の松也が現れる。いい二枚目ぶりで、これは本役だろう。続いて時蔵のお三輪が苧環の白糸を辿って花道より出てくる。もう還暦を過ぎている時蔵だが、しっかり娘に見えるのは流石。ただやはり義太夫狂言としての「コク」は希薄だ。

 

ここでは芝翫久々の女形おむらが独特の存在感で、短い出番ながら印象に残る。この後の苛め官女は冗長。誰がやってもさして面白い場ではないが、ここはやたら長く感じる。

 

やがて嫉妬に狂って疑着の相を現したお三輪を、鱶七実は金輪五郎今国の松緑が刺す。自らの生血が入鹿から宝剣を奪い返し、求女実は藤原淡海の役に立つ事を知ったお三輪は、苧環を抱いて息絶える。しかしここでの時蔵は素晴らしかった。「もう目が見えない」と絞り出す科白には、切ないまでの哀感が漂い、最後の最後にいい芝居になった。

 

続いて菊之助の『文屋』。先月に引き続いての「六歌仙」だ。これは『喜撰』よりニンに合っており、いかにも公家の風情があって、いい文屋。官女相手の恋問答のはんなりとした色気がたまらなくいい。ぜひ踊りこんで行って欲しい。

 

最後は菊五郎の『野晒悟助』。黙阿弥作としては、大した事はない。ただそこは音羽屋、風情だけできっちり見せるいい伊達男ぶり。若女形の米吉と児太郎の恋の達引きを泰然と受けて流石の貫禄を見せる。

 

大詰「四天王寺山門の場」は大立ち回りの後、左團次の仁三郎ときっちり決まって幕となる。作の出来の悪さを役者の風情で最後迄引っ張ってしまう音羽屋の芸は、やはり大したものだと改めて思わされた。

 

夜の部はまた別項で。