fabufujiのブログ~独断と偏見の歌舞伎劇評~

自分で観た歌舞伎の感想を綴っています

「ギャラリーレクチャー 見果夢紀高麗屋」

高麗屋ご夫妻のトークショウに行って来ました。

 

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ご夫妻の写真撮影は不可だったので、会場にあった『あらしのよるに』の衣装

 

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東海道中膝栗毛』の釡桐左衛門の衣装もありました。

 

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出演者のサイン。中央に今回の白鸚丈のサインが。

 

京屋の時と同じ、松竹の戸部さんの司会は今回もやはりイマイチでした(苦笑)。しかし今年金婚式を迎えると云う高麗屋ご夫妻の、何とも云えないいい空気感を感じました。今月47年ぶりで大蔵卿を、3月に30年ぶり以上の吃又を演じる高麗屋。「昔習った芝居を、もう一度一から勉強する」とおっしゃっていました。今年喜寿を迎えても衰えない役者魂に、改めて頭が下がりました。

 

壽 初春大歌舞伎 夜の部 播磨屋の『絵本太功記』、猿之助・幸四郎・七之助の『松竹梅湯島掛額』

一月歌舞伎座夜の部を観劇。その感想を綴る。

 

幕開きはいきなり真打登場の『絵本太功記』。播磨屋の光秀、雀右衛門の操、幸四郎の十次郎、歌六の久吉、東蔵の皐月と云う、当代考えうる最高の布陣。これで悪い訳がないと云いたいところなのだが、筆者は丸本は大好きなのだが、この『絵本太功記』と云う狂言が個人的にあまり好きではない。この狂言文楽で観る方が筆者は好きなのだ。

 

何故だろう。後半が歌舞伎としては動きがなさ過ぎるせいだろうか。誰で観てもあまり面白いと思った事がない。播磨屋雀右衛門もしっかり義太夫味があり、芝居として悪いと云う事はない。しかし筆者には訴えかけるものがないのだ。

 

幸四郎の二枚目は鉄板であるし、米吉の初菊もひたすら可憐。しかしそれだけなのだ。これは演者の問題と云うよりも、筆者と狂言との相性の問題だろう。しかしその中で特筆大書したいのは、葵太夫の竹本。これはもう素晴らしい。当代文楽でもこれ程の太夫はそうそういない。この竹本だけでも、お金を払う価値はあると思う。

 

続いて梅玉芝翫以下の『勢獅子』。正月らしい目出度い舞踊で、実に気分よく観れる。梅玉芝翫はひたすら鯔背、福之助と鷹之資が獅子舞で大活躍。重厚な義太夫狂言の後で、肩の凝らないいい舞踊だった。

 

最後は『松竹梅湯島掛額』。猿之助の紅長、七之助のお七、幸四郎の吉三郎と花形を揃えた狂言。夜の部ではこれが一番の見物。猿之助は相変わらず軽妙で、客を沸かすツボを心得ている。七之助幸四郎は正に時分の花の美しさで、並んだところは一幅の絵だ。

 

そして「四ツ木戸火の見櫓の場」での七之助の人形振りは、その技術こそ福助に一歩譲るが、顔の作りと云うか七之助のクールな美貌は人形に打ってつけ。ここまでの動きはもはや福助には無理だろうと云う事を考えれば、当代のお七と云っていいと思う。

 

脇では竹三郎のお杉が流石芸の年輪を感じさせて、情感溢れるいいお杉。松江の六郎が眼鏡をかけるところで「老眼で見えな~い」とハズキルーペのCMをもじって客席を沸かせていた。松江は最近脇で実にいい仕事をする様になっている。これからも期待したい優だ。

 

最後に花形揃い踏みのいい狂言が観れて、気分良くいいお酒が飲めた夜の部だった。

 

今月はあと昼の部と新橋の夜の部を観劇予定。その感想はまた改めて綴ります。

新春浅草歌舞伎 夜の部 松也・歌昇の「対面」、隼人・種之助の「皿屋敷」、若手勢揃いの「乗合船」

筆者今年の初芝居は浅草。浅草寺の初詣客も凄かった。若手が揃う「新春浅草歌舞伎」の感想を綴る。

 

新年幕開きは定番の『寿曽我対面』。松也の五郎、歌昇の十郎、巳之助の朝比奈、新悟の虎、梅丸の少将、錦之助の工藤と云う配役。若手が錦之助にぶつかるいい芝居になった。

 

松也の五郎は荒事の力強さには欠けるが、若さ故五郎の稚気の様なものが表出されている。五郎は前髪なので、子供らしさがなければならない。重鎮の五郎は芸で見せてくれるのだが、本来若手が担う方が役の寸法には合致する。歌昇の十郎も柔らか味があり、二人の芸格が揃って中々の見物だった。

 

そして何と云っても錦之助の工藤がいい。元々工藤のニンではない優だとは思うが、このメンバーの中に入ると流石に貫禄が違う。芝居と云うのはやはりキャッチボールの様なものなのだ。若手の曽我兄弟に対して、播磨屋あたりが工藤になると、これはもう勝負にならない。この「対面」は、役の芸格が揃うといい芝居になると云う典型だろう。

 

脇では巳之助の朝比奈がいい。この優は近年メキメキ腕を上げている。今後の期待大だ。新悟と梅丸も時分の花の美しさがあって、舞台が華やかになった。

 

続いて『番町皿屋敷』。隼人の播磨、種之助のお菊、そして何と後室真弓に錦之助!本当かよ!?と思った錦之助女形がまたいいのだ。旗本の後室としての品格と位取りがきっちり出来ている。やはり芸歴50年は伊達じゃない。共演の倅隼人も、改めてお父っつあんの懐の深さに瞠目したのではないか。

 

対して隼人は父譲りの品の良さはいいのだが、播磨の今で云うところの「キレる」感じが出てこない。大人しく優等生過ぎるし、芝居が固いのだ。筆者は初日に観たので、この後日を重ねていけば、こなれてくるかもしれないが。旗本の跡取りらしい品はあるので、自分の心が女中に試されたと云うだけの事で、重宝の皿を全て叩き割って恋人を惨殺してしまう異常さをもっと出して欲しい。

 

種之助のお菊も行儀はいいのだが、芝居がさらさら流れ過ぎる。第二幕「番町青山家の場」は錦之助が出ておらず若手二人の芝居だったので、やはり手応えがない。恋人播磨に縁談があると聞いたお菊の不安な心情、その心情故に皿を割ってしまう女心を、もっと出せる様になって欲しいと思う。

 

最後は若手勢揃いの『乗合船惠方萬歳』。今回はこれが一番楽しめた。芝居では固さのあった若手花形だったが、踊りは子供の頃から叩き込まれているだけあって、しっかり踊れている。しかも若さ特有の華もあり、実にいい打ち出し狂言となった。

 

中ではやはり巳之助の萬歳が亡き三津五郎仕込みで上手い。種之助の才造と揃っての三河萬歳も二人のイキが合って、観ていて気持ちのいい舞踊。そして良かったのが鶴松の芸者。女形舞踊の柔らか味がある中にも、指先迄しっかり神経が行き届いていて、もっと観ていたいと思わせてくれた。流石亡き勘三郎に見込まれただけの事はある。この優の女形芝居も改めて観てみたいものだ。

 

色々注文を付けた部分もあるが、若手花形が揃って正月らしい華やかな舞台を楽しめた一日だった。

 

今月は歌舞伎座と新橋も観劇予定なので、また別項にて綴りたい。

 

 

新春浅草歌舞伎 (写真)

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浅草の初日が今年の初芝居です。

 

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絵看板です。

 

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立て看板です。

 

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そうそう、今年はこれも観なければ。

 

明けましておめでとうございます。今年も気儘に、マイペースで綴っていきます。宜しくお願い申し上げます。

 

私が観た平成三十年歌舞伎 ベスト10

今年私が観た歌舞伎の中で、高麗屋襲名狂言以外の独断と偏見に満ちたTOP10をあげて行く。順位はあまりこだわりがないが、この10本と云う感じで。

 

まず10位

二月大歌舞伎より『暫』

海老蔵はあまり歌舞伎座に出ないので観る機会は少ないのだが、今年ではこれ。久々に海老蔵らしい芝居を満喫。この優の荒事は力強さの中に色気もあり、素晴らしい。来年あたりこの人で弁慶が観たいものだ。

 

続いて9位

十二月国立劇場『通し狂言 増補双級巴―石川五右衛門―』

今年最後に観劇した狂言。最近感想を綴ったばかりなので重複は避けるが、播磨屋の奮闘と、雀右衛門義太夫味が光ったいい狂言だった。

 

8位

團菊祭五月大歌舞伎より『弁天娘女男白浪』

いや~音羽屋の弁天、素晴らしいと云う言葉も陳腐に聞こえる熟練の芸。来年もまだまだ魅せて欲しいです。

 

7位

芸術祭十月大歌舞伎より『助六曲輪初花桜』

松嶋屋助六、カッコよすぎです。古希を過ぎてのこの色気、怪物ですな。来年はこの優でもっと義太夫狂言が観たい。

 

6位

十月国立劇場『通し狂言 平家女護島』

今まで筆者が観た芝翫のベスト。現大幹部と花形世代を繋ぐ貴重な立役。来年も期待しています。

 

そしてTOP5

まず5位

芸術祭十月大歌舞伎より『佐倉義民伝』

白鸚の名人芸を堪能出来た狂言。来年は襲名巡業がメインになって、歌舞伎座ではあまり観られないかな。勿論出来る限り巡業も追いかけるつもりです。秋のラマンチャも楽しみ。

 

そして4位

吉例顔見世大歌舞伎より『十六夜清心

音羽屋と時蔵の名コンビによる最高の「清心」。これぞ歌舞伎です。この二人の世話物は見逃せませんな。

 

いよいよTOP3

まず第3位

六月博多座大歌舞伎より『平家女護島~俊寛

松嶋屋2つ目のランクイン。松嶋屋しろ、音羽屋にしろ、その至芸の総仕上げを意識していると思う。最高の「俊寛」でした。ラストは今思い出しても切なくなる。

 

そして第2位

三月国立劇場『梅雨小袖昔八丈』

菊之助初役とはとても思えない新三。いや~色っぽい新三で、これから練り上げたらどこまで行くのか、楽しみでならない。大河や「下町ロケット」出演で一般的知名度もUPした事だろう。来年は「ナウシカ」を歌舞伎化するそうだ。どんな事になりますか。

 

いよいよ栄えある(?)年間第1位

八月納涼歌舞伎より『盟三五大切』

幸四郎獅童七之助と花形三人そろい踏みで、正に当代の「三五」とも云うべき素晴らしい舞台だった。余談だが、獅童高麗屋襲名に一度も出ていないのは何故だろう?白鸚に権太や富樫を教えて貰っているし、こうして幸四郎とも共演しているのだから、仲が悪いとも思えない。来年の巡業には付き合って、いい芝居を見せて欲しい。

 

以上極私的平成三十年歌舞伎のベスト10。今年もいい芝居を沢山観る事が出来た。来年も今年に以上に素晴らしい舞台を数多く観たいものだ。

 

私的 平成三十年歌舞伎 高麗屋三代襲名の一年

今年も時間と財政の許す限り歌舞伎を観てきた。その総括をしたい。

 

今年は何と云っても高麗屋三代襲名の一年だった。歌舞伎座に始まり、御園座博多座大阪松竹座南座と、私は全公演を観劇する事が出来た。襲名演目は下記になる。

 

一月歌舞伎座

『菅原伝授手習鑑』車引・寺子屋

勧進帳

二月歌舞伎座

『一條大蔵譚』檜垣・奥殿

『一谷嫩軍記』熊谷陣屋

仮名手本忠臣蔵』七段目

四月御園座

『籠釣瓶花街酔醒』

勧進帳

『廓文章』吉田屋

六月博多座

『慙紅葉汗顔見勢』伊達の十役

『新皿屋舗月雨暈』魚屋宗五郎

『春興鏡獅子』

七月大阪松竹座

『天衣紛上野初花』河内山

勧進帳

女殺油地獄

十一月南座

『連獅子』

『御存 鈴ヶ森』

勧進帳

『雁のたより』

 

「車引」と「寺子屋」はそれぞれ独立して演じられたので、計19演目。我ながらよく観たものだ。その中でも『勧進帳』が四回。改めて高麗屋にとってこの演目が大切なものである事が判る。襲名披露を通じて感じた最大の事は、このブログでも度々触れてきたが、新幸四郎の著しい進境だ。芸格が一回りや二回りどころではなく、倍以上になったかの様に思われる。四月の御園座あたりまでは、「ニンにない役に挑んで健闘しているな」と云う印象だったのが、六月の博多座になるとガラっと変わって、素晴らしい芝居を見せてくれた。昼の部「伊達の十役」が圧倒的で、中でも政岡が圧巻だった。そのあたりはブログでも触れたので繰り返さないが、来年以降も幸四郎から目が離せない。

 

白鸚は言葉の真の意味での円熟した芸を見せてくれており、演じた演目は少なかったが、その一つ一つの充実ぶりは素晴らしかった。来年はまたラマンチャにも挑むと云う。健康にだけは留意して、これからもその素晴らしい芸を披露し続けて欲しい。一月の大蔵卿も、今から楽しみだ。

 

染五郎は、実質今回の襲名がデビューみたいなものだろう。まだ芝居を云々する段階ではない。ただ南座で見せた仔獅子は、将来の大器を思わせるに充分のものだった。この優には比類ない美貌と、生来の気品がある。お祖父さん、お父さんを手本とし、頑張って欲しいものだ。

 

最後に最も印象的だった襲名狂言をあげておくと、幸四郎はやはり「伊達の十役」、そして白鸚は何と云っても「七段目」。白鸚の由良之助は、今まで筆者が観た数多い由良之助の中でも、最高のものだった。

 

今回は高麗者襲名狂言についてのみ取り上げた。それ以外の公演の私的総括は、また別項にて綴りたい。